インボイス経過措置の見直し|支払う側・課税になった個人、あなたはどっち?3分で分かる今日の一手

「インボイスの話は、もう落ち着いた」——そう思って手を止めていた経営者の方こそ、今回は3分だけお付き合いください。じつは今年2026年3月末に、インボイス制度の経過措置を見直す法律が成立しています。そして今年(2026年)10月に、数字が1つ切り替わります。専門的で自分ごとにしづらい話ですが、放っておくと「知らないうちにコストが増えていた」「使える特例を取りこぼした」ということになりかねません。

関係するのは、大きく次の2者だけです。(1)免税事業者(消費税を納めていない相手)に支払いをしている会社・お店と、(2)インボイスをきっかけに課税事業者(消費税を納める人)になった個人事業主。名古屋で中小企業の「外部CMO(社外のマーケティング責任者)」として伴走するマークレストが、なるべく専門用語を使わず、「自分に関係あるか」と「今日やる1手」だけに絞って解説します。

【結論先出し】今回の見直し、要するに何が変わった?

法律はすでに成立・施行済みで、適用が始まるのは今年10月以降です。ポイントは2つに絞れます。

  • その1:免税事業者への支払いで「一部だけ差し引ける」しくみ(経過措置)が、いきなり終わらず、段階的に細かく下がっていく形に変わりました。完全に使えなくなる時期も後ろへずれました。
  • その2:インボイスを機に課税事業者になった個人事業主向けに、納税の計算をラクにする特例が、名前と割合を変えて続きます(2割特例のあとに3割特例)。

差し引ける割合(正しくは、免税の相手への支払いにかかる消費税のうち、自社が控除=差し引きできる割合)は、見直し後は次のスケジュールになります。

期間 控除できる割合(見直し後)
〜2026年9月30日 80%
2026年10月1日〜2028年9月30日 70%
2028年10月1日〜2030年9月30日 50%
2030年10月1日〜2031年9月30日 30%
2031年10月1日〜 0%(廃止)

【自分ごと診断】あなたはどっち?

ここから先は、あなたの立場によって読む場所が変わります。次のどちらかにあてはまるところだけ読めば十分です。

  • 立場①:支払う側——免税事業者(消費税を納めていない外注先・仕入先・大家さんなど)に、お金を払っている会社・お店。
  • 立場②:課税になった個人——インボイス登録をきっかけに、免税事業者から課税事業者になった個人事業主

ここで最初の誤解を1つ潰しておきます。「うちは課税事業者だから関係ない」は、正しくありません。支払う相手が免税事業者の場合、この経過措置は「支払う側」の話だからです。相手ではなく、あなたの会社の納税額に効いてきます。

【立場①】免税の相手に支払う人へ:廃止が2年延び、今年10月に80%→70%

これまで、免税事業者への支払いにかかる消費税は「全額は差し引けないが、一定割合までは差し引ける」という経過措置がありました。今回の見直しで、そのスケジュールが緩やかになり、完全に使えなくなる時期が2年うしろへずれました(従来の2029年10月廃止→2031年10月廃止)。

見直し前は、もっと急な階段でした。参考までに並べておきます。

  • 見直し前の予定:80%(〜2026年9月30日)→ 50%(2026年10月1日〜2029年9月30日)→ 0%=廃止(2029年10月1日〜)
  • 見直し後(実際にこうなる):80% → 70% → 50% → 30% → 0%=廃止(2031年10月1日〜)※期間は前掲の表のとおり

つまり、今年10月にいきなり50%まで下がる予定だったところが70%にとどまり、完全に使えなくなる時期も2029年10月から2031年10月へ2年うしろへずれた、というのが今回の見直しです。

ここで、読み違えやすい点を2つ整理します。

  • 「今年10月から70%になる=負担が軽くなる」ではありません。今の80%と比べれば、70%は差し引ける分が減ります。緩やかになったのは、あくまで従来2026年10月に予定されていた50%への引下げが、70%へとゆるやかになったという「予定との比較」の話です。今日を基準にすれば、今年10月に差し引ける割合は80%から70%へ下がります。
  • 「割合が下がる=相手に払う額が増える」でもありません。相手への支払い額そのものが増えるわけではなく、正しくは自社が差し引ける(控除できる)分が減る=自社が納める消費税が増える、という向きの話です。

【立場①の今日やる1手】取引先リストを「登録あり/なし」で色分けする

むずかしい計算は税理士の仕事です。経営者としての今日の一手は、「どこに、いくら効いてくるか」の地図を持つことだけで十分です。具体的な手順はこうです。

  • 手順1:外注先・仕入先・毎月の支払い先を一覧にする(すでにある会計データや支払いリストでOK)。
  • 手順2:各先を「インボイス登録あり/なし(=免税の可能性あり)」で色分けする。請求書に登録番号(Tで始まる13桁)があるかどうかが目印です。
  • 手順3:「登録なし(免税の可能性あり)」の相手への支払いが多い費目だけ、今年10月以降の予算に少し余白を持たせておく。

東海エリアでは、職人さん・一人親方・小規模なデザイナーやライターなど、免税のままの取引先が一定数いる業種(建設、製造の外注、士業以外の各種サービスなど)が少なくありません。だからこそ、全体をならして身構えるより、「効いてくる費目だけ」を見つけて備えるほうが、ムダがありません。

なお、ここで「相手に登録しろと迫る」必要はありません。登録するかどうかは相手の選択であり、これまで様子を見てきた御社の判断も間違いではありません。あくまで自社の予算感をつかむための棚卸しと考えてください。

【立場②】インボイスで課税になった個人へ:2割特例のあとは「3割特例」

インボイス登録をきっかけに、免税事業者から課税事業者になった個人事業主の方へ。納税額の計算をラクにする「2割特例」を使ってきた方は、次の切り替わりを押さえておいてください。

  • 2割特例は、個人の場合、令和8年分(2026年分)の申告が最後になります(申告の実務は2027年のはじめ)。「2026年9月で終わり」という言い方は正確ではなく、その課税期間の区切りで終了する、という整理です。
  • そのあと、令和9年分・令和10年分(2027年分・2028年分)については、新しく「3割特例」が使えることになりました。

3割特例の中身は、平たく言えば「売上にかかる消費税額の3割を納める」形で計算できるというものです。2割特例の後継にあたり、割合が2割から3割へ変わった、という中立な理解でよいでしょう。得か損かではなく、計算方法の1つとして押さえてください。

使える対象は、現行の2割特例と同じ範囲——つまり、免税事業者がインボイス発行事業者になったこと(または課税事業者になることを選んだこと)で、消費税を納めることになった個人事業主です。ここで大事な注意点が2つあります。

  • 3割特例は「個人事業者のみ」。法人は使えません。
  • 使うための事前の届け出は不要です。確定申告書に「3割特例を使う」旨を付記するだけで適用できます。「別途、届出書の提出が必要」ということはありません。

【立場②の今日やる1手】

今日やることはシンプルです。自分が今どの計算方法を使っているか(2割特例か、本則か、簡易課税か)を、直近の申告書で確認しておくこと。そのうえで、2027年分・2028年分は3割特例という選択肢がある、と頭の隅に置いておけば十分です。実際の有利・不利の判断や計算は、顧問税理士に相談してください。

【変わっていないもの】少額なら帳簿だけでOK(少額特例)

ここは安心材料です。少額の支払いについて、インボイス(適格請求書)がなくても帳簿への記録だけで差し引きを認める「少額特例」は、今回の見直しでは変わっていません。中身はこれまでどおりです。

  • 対象:基準期間(原則、前々年・前々事業年度)の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者。
  • 金額の目安:税込1万円未満の課税仕入れ(仕入れや外注などの支払い)。1万円未満かどうかは1回の取引ごとに見ます。
  • 期間:令和5年(2023年)10月1日から令和11年(2029年)9月30日まで。

小規模なお店・会社が日々こなす少額の支払いについては、これまでどおり帳簿の記録で対応できる、と考えてよいでしょう。

【補足】大きく仕入れる会社だけの話

なお今回の見直しでは、立場①(支払う側)のうち、免税事業者などからの仕入れが年間で非常に大きい会社について、経過措置を使える金額の上限が引き下げられました。大きく仕入れる会社向けの規定で、小規模・零細の会社には原則として関係がありません。該当しそうな場合は、金額の考え方も含めて顧問税理士にご確認ください。

まとめ:今日やる1手は「立場」で1つだけ

網羅的に覚える必要はありません。あなたの立場に応じて、次の1手だけ実行すれば十分です。

  • 免税の相手に支払っている会社・お店(立場①):取引先・外注先リストを「インボイス登録あり/なし」で色分けし、免税の相手が多い費目だけ今年10月以降の予算に余白を持たせる。
  • インボイスで課税になった個人事業主(立場②):直近の申告書で今の計算方法を確認し、2027・2028年分は3割特例(個人のみ・届出不要)という選択肢があると覚えておく。

制度そのものの相談・申告は税理士の領域ですが、マークレストがお手伝いできるのは、その「伝え方」です。たとえば、免税の取引先への案内文をどう書くか、価格や取引条件の見せ方を今回の変更にどう合わせるか、自社サイトやお知らせでどう発信して信頼につなげるか。制度の変化を、お客様や取引先との関係づくりに変えていく設計は、まさに私の仕事です。伝え方の設計にお困りでしたら、サービス紹介はこちらからご覧いただくか、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。名古屋の中小企業の”右腕”として、御社に本当に効く一手を一緒に考えます。

※本記事は制度変更の要点を平易にまとめた一般的な情報提供であり、個別の税額計算・申告・税務判断は顧問税理士へご相談ください。マークレストは税理士ではなく、個別の税務相談や申告の代行は行いません。制度の最新・正確な内容は、国税庁「インボイス制度に関する令和8年度税制改正について」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice-review/index.htm)および財務省「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答」(https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/qa_futankeigen.pdf)を必ずご確認ください(いずれも2026年7月10日確認)。