帝国データバンクの調査(有効回答5,241件)は、経営課題を5カテゴリー31項目に整理し、人材強化は90.2%が挙げました。課題はすでに分かっている。詰まっているのは順番の決め方だと私は見ています。紙1枚でできる6ステップにまとめました。
結論から書きます。経営課題が多いこと自体は、問題ではありません。困るのは、「どれから手を付けるか」を決める作業に、お金も時間も一度も払っていないことです。
帝国データバンクが2026年3月4日に公表した調査(有効回答5,241件)では、企業の経営課題が5つのカテゴリー・31項目に整理されています。そのうち「人材強化(採用、定着、育成)」を挙げた企業は90.2%。ほとんどの会社が、自社の課題そのものは分かっている、ということです。
そして同じ調査で、課題に取り組むうえでの障壁として多く挙がったのは「人材の不足」「ノウハウの欠如」「必要なスキルの不足」でした。
つまり、詰まっているのは「気づいていないこと」ではありません。手が足りない中で、31項目をどう並べるか——その順番の決め方です。あれこれ少しずつ手を出すと、どれも中途半端なまま止まりがちです。人が足りない会社ほど、そうなります。
今日やっていただきたいのは、たった1つです。
A4を1枚用意して、自社の課題を思いつくまま書き出し、そのうち「今月は手を付けない」ものに、いつ見直すかの日付を書き込んでください。
捨てるのではありません。「見る日を決めて、いったん封をする」のです。順番を決めるとは、やることを選ぶ作業ではなく、やらないことを、罪悪感なく置いておける状態にする作業です。ここが決まっていないと、月末になるたびに全部が気になり、全部が動きません。
詳しいやり方は、この記事の後半に「紙1枚の手順」として6ステップで書きました。所要は打ち合わせ1回ぶんくらいの手間です。
| 役に立つ人 | たぶん役に立たない人 |
|---|---|
| 課題が多すぎて、どれも中途半端に止まっている | 今期やることが1〜2本に絞れていて、すでに走っている |
| 社長が実務も持っていて、考える時間が取れない | 企画・分析の専任者が社内にいる |
| 「まず何かやらないと」で道具から入りがち | 投資の判断基準が数字で決まっている |
ここから先は、なぜ「順番を決めること自体に先にお金を払う」のが結局いちばん安上がりなのか、その考え方と手順です。
まず、引用元をはっきりさせておきます。帝国データバンク「企業の経営課題に関するアンケート(2026年)」(2026年3月4日公表)。調査期間は2026年1月20日〜2月6日のインターネット調査で、有効回答数は5,241件(経営層・マネジャー)です。企業規模の区分は中小企業基本法と産業競争力強化法に準拠、業種はTDB産業分類(1,359業種)によるとされています。
選択率の上位はこうなっています。
| 経営課題(原典が本文で挙げた上位項目) | 選択率 |
|---|---|
| 人材強化(採用、定着、育成) | 90.2% |
| 既存顧客との取引深耕 | 66.0% |
| 販路開拓 | 60.5% |
| 業務の標準化 | 58.3% |
| 賃上げ・評価制度 | 57.6% |
※出典=帝国データバンク「企業の経営課題に関するアンケート(2026年)」2026年3月4日公表。数値は必要最小限のみ引用。
「資金繰り・財務体質の強化」も52.5%で、半数を超えています。原典が本文で挙げた上位項目は、いずれも5割を超えています。「うちはこれが弱い」と分かっている項目が、1社あたり何本も同時に立っていることがうかがえます(私の読み方です)。
ここで大事なのが、同じ調査が示した障壁です。障壁として多く挙げられたのは「人材の不足」「ノウハウの欠如」「必要なスキルの不足」。なお原典は、人材強化が90.2%と突出した点について「『ヒト』の問題が経営環境のボトルネックになっていることが示された」と書いています。障壁の設問でも同じ「ヒト」が並んだ、という読み方です。
このボトルネックという言葉は、私の仕事の看板でもあるので、噛み砕いておきます。ボトルネック=ビンの首のことです。ビンを逆さにして水を出すとき、出る速さを決めるのは、ビンの太い胴体ではなくいちばん細い首です。会社も同じで、一番詰まっている一か所だけが、全体の流れる速さを決めます。詳しくは「投資の前に、ボトルネックを見つける」の記事にも書きました。
私は独立前、製造業をはじめ5つの業種で15年ほど現場にいました。生産管理や営業も担当しています。工場の生産管理では、これは特別な理論ではなく日々の当たり前です。ある工程で仕掛品(作りかけの品物)が山積みになっているとき、全工程の作業を等しく5%ずつ速くしても、出来高はほとんど増えません。増えるのは、詰まっている一か所を広げたときだけです。それ以外の工程を速くすると、仕掛品の山が高くなるだけで、置き場と資金が余計に食われます。
経営課題の31項目も、これとまったく同じ構造だ、というのが私の見立てです。 31項目に均等に力を配ると、動いた実感だけが残り、出口の量は変わりません。むしろ手を広げたぶん、社長の時間という一番希少な資源が薄く削られます。
ここがこの記事の芯です。
多くの会社は、最初のお金を「実行」に払います。採用媒体に出す、ホームページを作り直す、道具を入れる。どれも間違いではありません。ただ、これだけの数の課題が同時に立っていて、しかも手が足りない状態でそれをやると、こうなりがちです。
いずれも「買った物が悪かった」のではありません。順番の問題です。 過去に入れた道具も作った物も、多くの場合そのまま資産として効き始めます。効かせる順番が、まだ来ていなかっただけです。
だから私は、選ぶことそのものに、先にコストを払ってくださいと言っています。ここでいうコストは、必ずしも外に払うお金ではありません。社長が机に向かう1時間半でも構いません。要は、「決める」という工程を、無料の余り時間でやろうとしないということです。
選ぶ工程に払う費用は、実行に払う費用より小さく収まることが多い、というのが私の実感です。そして選び間違えた実行の費用は、丸ごと戻ってきません。どちらが無駄かは、比べるまでもないと私は考えています。
そのまま真似できる形にします。用意するのはA4の紙1枚とペンだけです。表計算ソフトでも構いませんが、最初は手書きのほうが早く終わります。
| 手順 | やること | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| ① 洗い出す |
気になっている課題を、順不同で全部書く。きれいに分類しない。15分で打ち切る。 | 整理しながら書こうとすると終わらない。まず出し切る。 |
| ② 値段を付ける |
各行の右に「これが原因で、月にいくら/何時間 失っているか」を書く。ざっくりで良い。 | 分からない行は「不明」と書く。空欄にしない。「不明」も立派な情報。 |
| ③ 波及を数える |
「この1行が片付いたら、他のどの行が軽くなるか」を線でつなぎ、本数を数える。 | 線が多く集まる行が、ビンの首(詰まっている一か所)の候補。 |
| ④ 期限で○× |
「1年以内に着手しないと、来年もっと苦しくなるか?」で○×を付ける。 | 全部○にしない。○は多くても3本までと決めてから付ける。 |
| ⑤ 1本に絞る |
②の金額が大きく・③の線が多く・④が○の行を上から3つ。そこから今月動かす1本だけ選ぶ。 | 「3つとも今月」にしない。3つ同時は、実質ゼロと同じになりやすい。 |
| ⑥ 封をする |
残り全部に「見直す日付」を書き、紙ごとファイルにしまう。 | 日付が無いと「放置」になり、月末に全部が気になって戻ってくる。 |
②の「不明」が3つ以上並んだら、それ自体が最初の一手です。 失っている額が分からない課題には、正しい順番を付けようがありません。まず測る(数える)ところから始めるのが、結果的にいちばん安く済むと私は考えています。
この調査には、規模別の数字もあります。「人材強化」を挙げた割合はこうです。
| 企業規模 | 人材強化を挙げた割合 |
|---|---|
| 大企業 | 98.2% |
| 中堅企業 | 96.6% |
| 中小企業 | 94.0% |
| 小規模企業 | 77.6% |
ここは誤読されやすいので、はっきり書いておきます。小規模企業の77.6%が他より低い理由を、この調査は説明していません。 「小規模の会社は人材を軽く見ている」といった読み方は、根拠がなく、私はしません。人を増やす以外の形(今いる人で回す設計、外の力の借り方など)で成り立たせている会社もありますし、そもそも「強化」以前に採用の土俵に上がる余力の問題もあり得ます。理由までは調査に書かれていない——それが正確な言い方です。
もう1つ、原典はこう書いています。
規模別にみると、「AI活用」「業務プロセスのDX化」「データ活用基盤の整備」において、「大企業」と「中堅企業」は、「小規模企業」と比べると30pt前後の格差があった
言葉を噛み砕きます。AI活用=人がやっていた文章作成や集計などを、生成AI(文章や画像を作れるコンピューターの仕組み)に手伝わせること。業務プロセスのDX化=紙・電話・手入力でやっていた仕事の流れを、デジタルの仕組みに置き換えて作り直すこと(DX=デジタル・トランスフォーメーション)。データ活用基盤の整備=バラバラの場所にある売上・顧客・現場の記録を、後から見比べられる形で一か所に貯める土台づくり。「pt(ポイント)」=パーセントどうしの差を表す単位です。
この30pt前後の差は、優劣ではありません。 会社の規模が違えば、人数も、専任を置けるかどうかも、意思決定にかけられる時間も違います。私はこれを「体力と人数の構造の差」だと見ています(私の見立てです)。
そして、構造の差だと考えると、打ち手は変わります。人数が少ない会社が大企業と同じ広さで手を出すのは、構造上そもそも無理です。広げて追いつくのではなく、絞って先に届く。順番を1本に決めることは、規模の小さい会社にとって、不利を打ち消す数少ない方法だと私は考えています。
ここから先は調査結果ではなく、東海(愛知・岐阜・三重)で私が想定している場面です。 この調査に地域別のデータはありませんので、地域の実態を示すものとしては読まないでください。
共通しているのは、お金を使う前に決まっていないことが必ず1つあるという点です。そこが決まらないまま買った物は、悪い物ではなく、まだ効くタイミングが来ていない物になります。
もう1つだけ、調査から引きます。着手時期を尋ねた結果では、『組織・人材』のカテゴリーで「即時」と「早期」を合わせた「1年以内」に着手すべきとの回答が80.5%に達し、5つのカテゴリーの中で最も高かったとされています。
ただし、これは「1年以内に着手すべきと考えている企業が多い」という事実であって、「1年以内にやれば上手くいく」という話ではありません。期限の意識が高い領域ほど、焦って順番を飛ばしやすい——私はそちらの副作用のほうを心配しています(私の見立てです)。急ぐ気持ちがあるときこそ、紙1枚に15分を先に払う価値があります。
ここは、はっきり書いておきたいところです。
そのうえで、書き始めたものの手が止まった、という段階でしたら、初回面談でその紙を拝見し、私がお引き受けできる範囲と費用をお伝えします。順番を実際に決めていく作業そのものは、面談後の有償の業務です。
初回面談はオンラインで90分程度。こちらから契約を急かしたり、その場で契約をお願いしたりすることはしません。新たな投資が不要と判断すれば、その旨を誠実にお伝えします。
帝国データバンク「企業の経営課題に関するアンケート(2026年)」2026年3月4日 公表
https://www.tdb.co.jp/report/
economic/20260304-management-issues/
(取得日:2026年8月17日)
※本記事における同調査の数値は、出所を明示したうえで必要最小限の範囲で引用したものです。図表の転載は行っていません。数値の解釈・当てはめは私(マークレスト 平野)によるものであり、調査主体の見解ではありません。