請求書の上で差し引いた値引き・返品・リベートは、支出の欄には出てきません。直近3か月の請求書の控えから、代金そのものが後で減った行を拾って合計を1行書き、理由に丸を付けると、次に見る場所が分かります。値引きの是非ではなく、合計の話です。
毎月の経費は、明細を1行ずつ見ている。けれど、「この3か月で、値引きや返品でいくら手放したか」は、合計を見たことがない——そういう社長の方へ。
結論から書きます。請求書の上で差し引いた値引き・返品・リベート(割戻し:取引の量などに応じて、代金の一部を後から戻すこと)は、請求書の金額が減るだけで、経費のように「支出」の欄には出てきません。だから、誰かが足さない限り、この3か月でいくら手放したかは、1つの数字になりません。合計を1行書くだけで、それが見えます。
値引きをしてきたのは、取引を守るための判断でした。一つひとつの値引きは、社長ご自身や現場の担当が、その時その時に取引を守るために決めたり、受け入れたりしてきたものです。この記事は、値引きの是非を問うものではありません。問うのは1つだけ、その合計を知っているかどうかです。
取引先に請求している会社(または、取引先から支払いを受けている会社)なら、業種を問いません。工事やサービスのように返品が起きない仕事なら、拾うのは「値引き」と「後から相手に戻したお金(協力金など)」だけで構いません。消費税の免税事業者(消費税を納める義務が免除されている事業者)も、同じ紙がそのまま使えます。
直近3か月分の、自社で出した請求書の控え(紙でも、パソコンの中のファイルでも)を手元に用意してください。
請求書を自社で出していない会社は、取引先から届く支払通知書・支払明細(取引先が「今回はこれだけ払います」と内訳を書いて送ってくる書類)を使います。手元に無ければ、経理の担当者や顧問の先生に「この3か月の請求書の控え(または支払通知書)を出してほしい」と頼んでください。書き出しは任せても構いません。社長の仕事は、丸を付けて、合計を読むことです。
目印は1つだけです。「金額がマイナスになっている行」。書き方は会社によって「△」「▲」「−」「赤い字」「( )で囲んだ金額」などとゆれます。「値引」「返品」「協力金」「割戻」といった言葉で探すと取りこぼすので、言葉ではなく、金額がマイナスかどうかで探してください。支払通知書で、差し引いた分をマイナスの印を付けずに「控除」などの別の欄に並べている場合は、その欄の行も拾ってください。拾った行のうち、どれを合計に数えるかは、このあとの「お断り」の1つ目で仕分けます。
拾った行を、紙に4列で書き写します。
最後に合計を1行書き、③の理由を件数(行の数)で数えて、いちばん多いものに丸を付けます。同じ数で並んだら、並んだ理由のどれにも丸を付けて構いません。紙に「合計の1行」と「丸の付いた理由」が書けたら、今日の1手は完了です。
この紙について、3つお断りしておきます。
0件には、3つの意味があります。
どれに当たりそうかを紙に1行書いて終えれば、それも今日の1手の完了です。次に見積書を出すときは、いつもの単価と見積の金額の差を、控えの余白に1行書いておいてください。見積の段階で下げた分も、次からは数字で残ります。1件も無いと確かめられたこと自体が、今日の数字です。
今日の紙は、社内だけで完結します。誰かに見せる必要も、取引先に何かを伝える必要もありません。
ここからは、私の見方です。私は独立する前の15年間、製造・生産管理・営業の現場で働いてきました。
値引きは、帳簿の上では「売上が減った」だけに見えます。けれど経営の上では、「取引を守るために使ったお金」です。使ったお金なら、経費と同じように、合計を見てから次を決める。順番は3つです。
理由を見ないまま、合計の大きさだけで値引きをやめると決めれば、守ってきた取引まで手放すことになりかねません。反対に、合計を見ないまま続ければ、その値引きが何を守っているのかが分からないままです。どちらも、判断の材料が足りない状態です。
なお、値段を上げる側の話——取引先に値上げを伝えるとき、何を根拠にするか——は、別の記事「値上げの根拠は、自社の原価表でなくていい|国が示す公表資料」に書きました。この記事は、値引きの是非ではなく、合計の話です。
合計の次に見るのは、丸を付けた理由です。理由でいちばん多いものが、次に見る場所を教えてくれます。私の見方では、理由と、次に見る場所は、次のように対応します。
この紙が教えてくれるのは、次にどこを見に行けばいいか、までです。値引きを続けるかどうか、取引先に何かを伝えるかどうかは、この記事では決めません。見る場所が分かったら、今日はそこまでで十分です。
合計が出たら、何かと並べてみても構いません。同じ3か月の売上の合計でも、社内でよく話題になる経費の1つでも、並べる相手は自由です。ただし、この記事では金額の大小を評価しません。「何%なら多い」とも書きません。見たいのは、大小よりも、丸を付けた理由のほうです。
たとえば、愛知・岐阜・三重で部品や資材、加工を手がける会社が、毎月同じ取引先と取引しているとします。紙に出てくる行は、次のような場面です(場面の例であって、どれくらい多いかの話ではありません)。
どれも、その場では1件ずつ片付いていく出来事です。ただ、3か月分を1枚に並べると、見え方が変わることがあります。
ここからは根拠です。値引きの話は、税金の話に聞こえるかもしれません。ですが、ここで法令と国税庁の案内を引くのは、税の手続きをしていただくためではありません。今日の紙は、社内にある書類から作れる——そのことをお伝えするためです。
消費税法38条1項の趣旨(要約)は、こうです。消費税を納めている事業者が、国内での消費税のかかる売上について、後から返品を受けたり、値引きや割戻しをしたりして、代金の全部や一部を返したり、売掛金(まだ受け取っていない代金)を減らしたりしたときは、その分に対応する消費税額を、売上にかかる消費税額から差し引く。
条文はこの3つを、「返品を受け、又は値引き若しくは割戻しをしたことにより」という1つの言い回しの中に並べています。この条文の上では、返品も、値引きも、割戻し(リベート)も、同じ仲間です。今日の紙で3つをまとめて1枚に書くのは、この並びと同じ向きです。
なお、同じ条文は、免税事業者(消費税を納める義務が免除されている事業者)を対象から外しています。ただ、経営の記録としては、同じ4列がそのまま使えます。値引きで手放したお金は、消費税を納めているかどうかに関係なく、手放したお金だからです。
国税庁のタックスアンサー(よくある税の質問をまとめたページ)の「No.6359」は、消費税の上で調整が必要な取引(「売上げに係る対価の返還等」)として、国内で行った、消費税のかかる売上がもとになって支払われるものを、7つの項目に分けて並べています(輸出取引など、消費税が免除される取引がもとになっているものは除く、とされています)。そのうち5つを抜き出します。
(1) 返品
(2) 値引き
(3) 事業者がその直接の取引先に支払う割戻し
この他、間接の取引先(商品等の卸売業者、製造業者等)に支払う飛越しリベート等とされるもの
(5) 販売奨励金等のうち、事業者が販売促進の目的で販売奨励金等の対象とされる課税資産の販売数量、販売高等に応じて取引先に対して金銭で支払うもの
(7) 課税資産の譲渡等に係る対価をその支払期日より前に支払を受けたこと等を基因として支払われる売上割引(4)(6)は省略。出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/
taxanswer/shohi/6359.htm)の記載をもとに一部を抜き出して作成
言葉をほどくと、こうなります。「課税資産」は消費税がかかる商品やサービス、「課税資産の譲渡等」はその売上のことだと考えてください。「飛越しリベート」は、直接の取引先を飛び越えて、その先の取引先に払うリベートのこと。「販売奨励金」は、販売を後押しするために取引先に払うお金。「売上割引」は、代金を支払期日より前に払ってもらったことなどを理由に支払われる割引のことです。
ここから分かるのは、読者の方が「値引き」とは呼んでいない形——期末の協力金や、早く払ってもらった分の割引——も、国の並べ方では、同じ仲間(売上げに係る対価の返還等)に入りうる、ということです。
ただし、(5)は「販売奨励金等のうち」と書かれています。販売奨励金がすべてこの仲間に入る、という意味ではありません。自社の協力金や奨励金が、税の上でどちらに入るかは、この記事では判断しません。顧問税理士にお尋ねください。
消費税法38条2項の趣旨(要約)は、こうです。消費税を納めている事業者が、値引き・返品・割戻しの分の消費税を差し引くには、その金額の明細を記録した帳簿を保存しておくことが条件になっています。災害その他やむを得ない事情で保存できなかったことを証明した場合の例外も、同じ項に定められています。
この条文を引いたのは、税の心配をしていただくためではありません。消費税を納めている会社なら、値引きや返品の明細は、税の手続きのために、すでに帳簿や請求書の控えのどこかに残っていることが多いと思います(ここは私の見立てです)。そうであれば、今日の紙の材料は、もう社内にあります。税のために残している記録を、経営の数字として読み直すだけです。残っていなくても、今日の紙は請求書の控えから作れます。
会計ソフトで値引きや返品を別の科目に分けている会社なら、その3か月分の合計を経理の方に出してもらう近道もあります。ただ、科目の合計からは、4列の③(理由)が分かりません。また、その科目に入っている行が、今日の紙で数える行(代金そのものが減った行)と同じとは限りません。丸を付けるには、やはり明細を見ることになります。
国税庁が個人事業者向けに出している冊子「帳簿の記帳のしかた(事業所得者用)」には、売掛帳(掛けで売った代金の記録)の記載例があります。設例(説明のために置いた例の取引)は、「キズものにつき返品を受ける」と「不良品につき¥1,200を値引きする」。記載例の表では、その金額が「△4,500」「△1,200」と書かれ、注には次のようにあります。
(注)1 ③、④の返品、値引は赤書き
出典:国税庁ホームページ「帳簿の記帳のしかた(事業所得者用)」13ページ
同じページには、現金出納帳(現金の出入りの記録)の書き方として、次の一文もあります。
商品の返品などで代金を払い戻した場合には、摘要欄に返品と明記して、現金売上欄に赤書き(又は金額に△を付して)表示して記載します。
出典:国税庁ホームページ「帳簿の記帳のしかた(事業所得者用)」13ページ
注の「③、④」は、冊子の設例の番号です(今日の紙の4列の番号とは別です)。「摘要欄」は、取引の内容を書く欄のことです。この冊子の説明では、現金で代金を払い戻したときも、書く場所は「現金売上」の欄で、赤書きか△です。今日の1手の目印を「金額がマイナスの行」にしたのは、国税庁の冊子も、記載例と説明の両方で、このようにマイナスの形で残しているからです。なお、冊子で確かめられたのは「赤書き」と「△」の2つです。「▲」「−」「( )」は、会社によってはこう書く、という例として挙げました。また、この冊子は個人事業者向けのものです。
この冊子の冒頭には、こうも書かれています。
帳簿の記帳は、単に税金の計算を行うためだけでなく事業経営の合理化・効率化等の検討にも役立つものです。
出典:国税庁ホームページ「帳簿の記帳のしかた(事業所得者用)」1ページ
税のための記録を、経営の数字として読み直す——この記事でしていることは、この一文と同じ向きです。
当社は、税の上での区分や計算の判断はしません。そこは顧問税理士の領域です。私が有償のご支援としてお引き受けするのは、今日の紙ができた、その先の部分です。合計と丸の付いた理由を材料に、次にどこへお金と手間を使うかの順番を決める——そこが私の仕事です。ここは有償のご支援になります。無料でお受けしているのは、次にご案内する初回面談(90分程度)までです。
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※本記事の法令・国税庁の記載は、2026年9月28日時点のものです。法令や国税庁の案内は変わることがあります。最新は下記の公式サイトでご確認ください。