「事業をやめるにやめられない」——そう思い込んでいませんか。日本政策金融公庫や帝国データバンクの最新調査から見える、後継者不在の実態と、経営者が意外と知らない相談先を、現場を見てきた外部CMOがやさしく解説します。
「もうこの歳から人に任せるなんて考えられない。だから、体が動く限り一人でやるしかない」——名古屋・東海エリアの経営者の方とお話ししていると、こうした言葉に出会うことがあります。社員には不安な顔を見せられない。家族にも心配をかけたくない。銀行にも弱みは見せたくない。結果として、経営者本人だけがハンドルを握り続けている、というケースは少なくありません。
でも、その「続けるしかない」は、本当に唯一の選択肢なのでしょうか。今回は、政府系金融機関の研究所と民間の調査会社が発表した最新の調査をもとに、実は多くの経営者が同じ悩みを抱えていること、そして「知らないまま諦めている選択肢」があるかもしれないことを、やさしくお伝えします。
先にお伝えしておくと、これは「だから事業を譲るべきだ」という話ではありません。続けると決めるにしても、譲る可能性を考えるにしても、一度は誰かに相談してから決めたほうがいいということです。どちらかに決めつけたまま一人で抱えるのが、いちばんもったいないのです。
次のうち、当てはまるものがいくつあるか、数えてみてください。3つ以上あてはまるなら、一度立ち止まって考えてみる価値があるかもしれません。
すべてに当てはまる方もいれば、1つか2つだけの方もいると思います。大事なのは点数の多さではなく、「知らないまま決めていないか」を一度確かめてみることです。
続けるにしても、譲るにしても、判断のスタート地点は同じです。「今、どこにお金と手間が詰まっているか」を数字で把握しておくことです。感覚だけで「うちはこんなものだろう」と決めてしまうと、続ける判断も、譲る判断も、根拠のないまま下すことになります。この考え方は、投資の順番を決めるときにも通じるところがあり、中小企業のお金の使い方について書いたこちらの記事でも詳しく解説しています。
「事業承継・引継ぎ支援センター」という、国が設置する公的な相談窓口があります。無料で、譲渡や承継を決めていない段階でも相談できます。「まだ決めていないけれど、選択肢だけ知っておきたい」という段階でも利用できる窓口です。気になる方は、事業承継・引継ぎ支援センターの全国の窓口一覧はこちらからご確認ください。
3つめが、いちばん大事なことです。答えを今すぐ出す必要はありません。ただ、「今、こういうことで悩んでいる」と口に出して誰かに話すだけでも、頭の中は整理されます。相手は専門の相談窓口でも、税理士や商工会議所でも、経営そのものについて本音で話せる相手でも構いません。なお、譲渡先を探したり後継者を選定したりする承継の実務は、私(マークレスト)の役割ではありません。私が担えるのは、その判断の土台になる「今の会社の実力」を数字で見える化するところまでです。もし「まず会社の数字から一緒に見てほしい」ということであれば、無料相談はこちらのお問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。こちらから契約を急かしたり、その場で契約をお願いしたりすることはしません。まずは今の状況をお聞かせいただくところから始めます。
日本政策金融公庫総合研究所が2025年6月に発表した調査があります。対象は、同公庫が融資している小企業のうち、2014年以前に創業し、経営者が60歳以上の企業です。この調査によると、「後継者が決まっておらず、売却や譲渡をするつもりもなく、働けるうちはずっと事業を続けたい」と考える経営者(同調査はこれを「生涯現役経営者」と呼んでいます)は21.6%にのぼります。今回の調査対象となった小企業だけでも、およそ5人に1人という規模です。
なぜ「続けたい」ではなく「続けるしかない」なのか。同じ調査で、この層に事業を続ける理由を尋ねたところ、次のような答えが並びました。
さらに、「新たな収入や援助がないと生計を維持できない」と答えた経営者は54.7%にのぼりました。つまり多くの場合、「まだ頑張りたいから」ではなく、「今やめると生活が立ち行かなくなる」という現実的な事情が、経営者を仕事に縛りつけているのです。もしここまでの数字に「自分のことを言われているようだ」と感じる部分があったとしても、それはあなただけの特別な弱さではなく、全国で一定数の経営者が置かれている状況だということです。
同じ調査では、事業の売却や譲渡を「検討しない理由」も尋ねています。もっとも多かった答えは「事業の規模が小さいから」で67.8%でした。多くの経営者が「うちみたいな小さい会社を、引き継ぎたいと思う人なんていない」と考えている、ということです。
ところが、この調査を発表した日本政策金融公庫総合研究所は、この結果について思い込みの可能性があると分析しています。規模の大小にかかわらず引き継がれている事業は実際にあり、「小さいから無理だ」という判断は、誰かに確かめる前の思い込みかもしれない、ということです。
不安になる数字ばかりではありません。帝国データバンクが2025年11月に発表した調査によると、全国の企業の後継者不在率(社長の後を継ぐ人が決まっていない企業の割合)は50.1%で、7年連続で改善しています。もっとも高かった2017年の66.5%と比べると、16.4ポイントも下がりました。中小企業では51.2%、小規模企業では57.3%です。
中身の変化にも注目です。同じ調査で、後継者を「内部昇格」(血縁によらず、社内の信頼できる人材に引き継ぐ形)で確保した企業の割合が36.1%となり、「同族承継」(家族・親族への承継)の32.3%を上回りました。ただし帝国データバンク自身は、これを「速報値段階で上回った」と表現しています。同じ調査の中で、2024年の実績では同族承継が35.7%で最も多かったことにも触れられており、確定値では順番が入れ替わることがある、という点は押さえておきたいところです。それでも、「跡を継げるのは家族だけ」とは限らなくなってきている、という流れは読み取れます。
同じ調査では都道府県別のデータもあり、三重県の後継者不在率は33.9%で、全国最低を5年連続でキープしています。全国平均50.1%と比べると、かなり低い水準です。地域や業種によって状況は同じではなく、「後継者問題はどうにもならないもの」と一括りにできるものではない、ということが数字からも見えてきます。
私が外部CMOとして愛知・岐阜・三重の経営者の方とお話ししていて感じるのは、こうしたテーマほど「誰にも相談していない」ことが多い、ということです。立場上、弱みを見せられる相手が身近にいない——これが、いちばん危ういと感じています。
念のためお伝えしておきたいのですが、事業の譲渡先を探したり後継者を選定したりすること自体は、私(マークレスト)の役割ではありません。それは専門のM&A仲介会社や、先ほどご紹介した公的な相談窓口が担う領域です。私が担えるのは、続けるにせよ、譲るにせよ、その判断の土台になる「今の会社の実力」を、感覚ではなく数字で一緒に見える化するところまでです。ホームページのアクセス解析や集客の数字を見ながら、今どこに立っているのかを客観的に整理する——それが、私がこの仕事で大事にしている考え方につながっています。詳しくはマークレストの理念をまとめたこちらの記事にも書いています。
「まだ続けるしかない」は、多くの経営者が同じように感じている、ごく自然な感覚です。同時に、その理由の中には「事業の規模が小さいから」といった、確かめる前の思い込みが混じっていることも、調査から見えてきました。続けると決めるのも、譲る可能性を考えるのも、どちらも立派な経営判断です。ただし、その判断は、知らないまま諦めた末のものではなく、選択肢を知ったうえでの判断にしたい——今日の記事が、そのきっかけになれば幸いです。
【出典】
日本政策金融公庫総合研究所「生涯現役経営者の実態と必要な支援策」(『調査月報』2025年6月号 No.201、2025年6月5日発表)
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/tyousa_gttupou_2506.pdf
(全国14,216社への郵送調査、有効回答6,354件・回収率44.7%、調査時点2024年9月)
帝国データバンク「全国後継者不在率動向調査(2025年)」(2025年11月21日発表)
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20251121-successor25y/
※本記事は各種調査データをもとにした一般的な傾向の紹介です。事業承継やM&Aの実務支援(後継者探し・譲渡先の選定・契約手続き等)は行っておりません。個別の事業承継・相続・税務のご判断は、事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的窓口や、税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。