製造の現場で使われている「7つのムダ」を、ホームページ・広告・制作物・ツール代といったマーケティングの支出に当てはめて点検します。7項目それぞれに、今日その場で投げられる点検の問いを1つずつ添えました。愛知・岐阜・三重の経営者へ。
結論から先に言います。マーケティングに使っているお金は、「効いた・効かなかった」で見るより先に、「どこでムダが生まれているか」で見たほうが早い。そして製造業の経営者には、そのための物差しがすでに手元にあります。現場で使われている「7つのムダ」です。これを広告費・制作費・そこにかかる人の時間に当ててみると、お金が詰まっている場所が、驚くほどはっきり見えてきます。
今日やることは、1つだけで十分です。去年つくった販促物——会社案内、パンフレット、チラシ、動画、展示会のパネル、ホームページの各ページ——を机の上に並べて、「この1か月で実際に使ったもの」に丸をつけてください。丸がつかなかったものが、あなたの会社の「つくりすぎのムダ」です。並べて見渡すだけなので、そう時間はかかりません。この記事でいちばんお伝えしたい一手は、これです。
この記事が役に立つのは、こんな方です。
逆に、すでに支出を1本ずつ棚卸ししていて、どの費用がどの数字につながっているかを説明できる方には、この記事は不要です。その状態まで来ているなら、次に見るべきは「ムダ」ではなく「伸びしろ」だからです。
先に、大事なお断りを2つさせてください。1つめ。この記事でいう「東海」は、愛知・岐阜・三重の3県を指します。2つめ。これから紹介する「7つのムダ」は、製造の現場で広く共有されている整理です。ただし、それをマーケティングの支出に当てはめるのは、私が独自にやっている見立てであって、トヨタ自動車や大野耐一氏が「広告費もこう考えるべきだ」と述べた、という事実は確認できていません。製造の現場でムダを見てきた私が、マーケティングのお金を同じ目で見るとこう見える——という、私の現場感からの見立てとして読んでいただければと思います。
私は独立する前の15年間、製造・生産管理・営業の現場で働いてきました。図面どおりに物ができているかを見て、材料と人と機械の段取りを組み、そして売りに行く。この3つを行ったり来たりしてきた人間です。
その15年で、体に一番深く入っているのが「ムダ」という言葉の解像度です。現場では「ムダ」は悪口ではありません。直す場所を指し示すための、ごく実務的な単語です。「ここ、手待ちだね」と言えば、誰も傷つかずに次の改善が始まる。そういう共通言語として機能しています。
そしてここが東海の面白いところなのですが、この共通言語は、とりわけこの地域の中核である愛知では、説明がほとんど要りません。愛知県の公式サイトによれば、愛知県の製造品出荷額等は58兆218億円で、これは全国の約15.5%にあたり、47年連続で全国1位です(原データは経済産業省「2024年経済構造実態調査」の2023年実績。出典は記事末尾)。ものづくりの厚みが、そのまま言葉の共通基盤になっている地域だということです。
ところが——です。同じ会社の中でも、ホームページ・広告・パンフレットにかかるお金には、この物差しが当たっていないことが本当に多い。工場では1秒の歩行動作を削るのに、販促費は「まあ、必要だろう」で通ってしまう。私が現場を回っていて、いちばん惜しいと感じるのがここです。
誤解のないように申し添えると、これは経営者の怠慢ではありません。物差しが無いから測れないだけです。工場のムダは目で見えます。積み上がった仕掛品も、手が止まっている人も、見れば分かる。でもマーケティングのムダは、データの中と、人の頭の中と、誰かの受信箱の中で起きる。見えないものは、測れない。だから今日は、見えるようにする道具を1つお渡しします。
7項目を並べる前に、大元の考え方を確認しておきます。ここは私の解釈ではなく、トヨタ自動車が公式サイトで説明している内容です。
同社は、トヨタ生産方式を「ムダの徹底的排除の思想と、つくり方の合理性を追い求め、生産全般をその思想で貫き、システム化した生産方式」と説明しています。そして同社は、働く人をより働きやすく、楽にすることを前提にと置いたうえで、その目的を「お客様にご注文いただいたクルマを、良い品質で、安く、タイムリーにお届けするために、徹底的にムダを無くし、リードタイムを短くする」ことだとしています。支える2本の柱は「ニンベンのついた自働化」と「ジャスト・イン・タイム」です(トヨタ自動車公式サイト「トヨタ生産方式」)。
「リードタイム」というのは、注文をもらってから、お客さんの手元に届くまでの時間のことです。難しく考えなくて大丈夫です。
私がこの説明で一番大事だと思うのは、ムダを無くすことが目的ではない、という点です。目的はあくまで、良い品質で、安く、タイミングよく届けること。ムダ取りは、そこへ至るための手段として置かれています。しかも、その手前に「働く人をより働きやすく、楽にすることを前提に」と置かれている。ムダ取りは、人を追い立てるための道具ではない、ということです。この順番は、記事の最後でもう一度効いてきます。
なお、いま引いたトヨタ自動車の公式ページで説明されているのは、ここまでの思想と2本柱までです。同ページに「7つのムダ」の一覧は載っていません。これから私が並べる7項目は、製造の現場で広く共有されている整理を、私の言葉で書き出したものです。資料によって呼び方には揺れがありますので、名前そのものにはあまりこだわらないでください。大事なのは「どういう状態を指しているか」のほうです。
まず、工場での姿だけを先に押さえます。マーケティングへの当てはめは次の章でやりますので、ここは軽く読み流していただいて構いません。
よく紹介される覚え方には「かざふてつどう」(加工・在庫・不良・手待ち・つくりすぎ・動作・運搬)や「かざってとうふ」(加工・在庫・つくりすぎ・手待ち・動作・運搬・不良)といった語呂合わせがあります。どちらかが「正式」というものではありません。覚えやすいほうで結構です。
ここからが本題です。7項目それぞれについて、①マーケティングの現場ではどういう姿で現れるか ②今日その場で自分に投げられる点検の問い を1つずつ付けていきます。繰り返しますが、この当てはめは私独自の見立てです。
いちばん分かりやすく、いちばん金額が大きいのがここです。会社案内、パンフレット、チラシ、動画、展示会のパネル、バナー、ホームページの下層ページ、書いたきりのブログ記事。「せっかく頼むのだから、一式そろえておこう」という判断で数を作り、実際に商談で使うのは1種類だけ——これは本当によく見る光景です。
工場のつくりすぎと構造がまったく同じです。作った瞬間は「資産が増えた」ように見える。でも使われないなら、それは在庫として置き場を食っているだけです。しかも紙と違って、デジタルの制作物は置き場を食っていることにすら気づけないという厄介さがあります。
▶ 今日の点検の問い:「去年つくった販促物のうち、この1か月で実際に使ったものは何割か?」
これは金額として現れないので、いちばん見逃されます。写真の準備が終わらずホームページの更新が2か月止まっている。原稿を社長に回したまま、机の上で3週間眠っている。担当者が本業に追われ、広告の管理画面を先月から開いていない。
止まっている間も、サーバー代も、ツールの月額も、担当者の人件費も、変わらず発生しています。工場で言えば、機械の電源は入っているのに、部品が来なくてラインが動いていない状態です。工場でそれが起きたら、社長は飛んでいくはずです。でもマーケティングだと、なぜか2か月放置されてしまう。
▶ 今日の点検の問い:「今、止まっている施策はいくつあって、それぞれ”誰の返事”で止まっているか?」
工場の運搬は「物を動かす」ことですが、マーケティングでの運搬は「情報の持ち替え」です。ホームページの問い合わせフォームに入った内容が、メールに飛び、それを印刷して、手書きでメモを足し、朝礼で口頭共有され、また別の管理表に転記される。1件の問い合わせが担当者に届くまでに、4回も5回も持ち替えられている会社は珍しくありません。
持ち替えるたびに時間が消え、そして写し間違いが混ざります。これも工場と同じで、運搬回数そのものは1円の価値も生んでいません。お客さんは「フォームを送った」以上のことを何も期待していないのに、社内では5工程が動いている。
▶ 今日の点検の問い:「1件の問い合わせが担当者の手元に届くまで、何回”持ち替え”が起きているか?」
これは誤解されやすいので、慎重に書きます。凝ること自体が悪いという話ではまったくありません。問うているのは「その手間は、買う側のどの判断を助けているか」という一点だけです。
会社案内の紙質を上質なものに変える。動画のオープニングに凝ったアニメーションを入れる。ホームページの、ほとんど見られていないページの言い回しを何度も直す。どれも丁寧な仕事です。ただ、決裁者が本当に見ているのは、多くの場合「うちの困りごとが、これで解決するのかどうか」の一点です。そこに答えていない部分をどれだけ磨いても、判断は動きません。
工場で「見えない面を磨くな」と言われるのと、まったく同じ理屈です。磨く技術が悪いのではなく、磨く場所の選び方の話です。
▶ 今日の点検の問い:「この手間は、買う側のどんな判断を助けているか。相手に一言で説明できるか?」
倉庫に積まれたままのパンフレット。名入れのノベルティ。撮影したまま編集していない映像素材。そして見落としがちなのが、使っていないのに毎月引き落とされているツールやサービスの契約です。
デザインツール、動画編集ソフト、予約システム、名刺管理、分析ツール、有料のプラグイン。試したときは必要だったものが、担当者の異動や方針変更でそのまま残る。1件あたりは月に数千円でも、これは在庫と違って、置いておくだけで毎月お金が減っていきます。工場の在庫より、性質としてはむしろ悪い。
▶ 今日の点検の問い:「毎月引き落とされているツール・サービスを、全部書き出せるか。そのうち先月ログインしたのは何個か?」
工場で「探すのは作業じゃない」と教わりました。マーケティングの現場でも同じことが起きています。会社のロゴデータがどこにあるか分からず毎回探す。前回出した広告の文面が見つからない。先月の問い合わせ件数を出すのに、メールを1件ずつ数えている。
1回あたりは5分かもしれません。でも週に何度も起きるなら、年間では相当な時間です。しかも、この時間は誰の請求書にも載らないので、経費の一覧をどれだけ眺めても発見できません。工場の歩行動作と同じで、見ようと決めないと見えないムダです。
▶ 今日の点検の問い:「先月の問い合わせ件数を、今すぐ、何分で言えるか?」
最後が、金額としては最も重い項目です。出来上がってきたものを見て「思っていたのと違う」となり、作り直す。あるいは公開してから直しを重ねる。材料も時間も二重に食うという点で、工場の不良とまったく同じ構造です。
ここで大事なのは、原因の見方です。これは、頼んだ側・受けた側のどちらかが悪い、という話ではありません。私の経験では、手戻りの原因はほとんどの場合「これは誰に、何をしてもらうためのものか」を決める前に走り出したことにあります。決めていないことは、決まっていないまま形になる。それだけのことです。
工場で言えば、図面を確定させる前に材料を切り始めるようなものです。どんなに腕のいい職人が切っても、図面が変われば切り直しになります。腕の問題ではなく、段取りの問題です。
▶ 今日の点検の問い:「直近の制作物で、“誰に何をしてもらうためのものか”を紙1枚に書いてから発注したか?」
ここまで読んで、「うちは全部当てはまる」と思われたかもしれません。私が見てきた範囲では、ほとんどがそうでした。7つ全部がきれいに片付いている会社のほうが、むしろ珍しい。
ただし、7つを同時に潰そうとするのは、いちばんやってはいけないやり方です。工場で全工程を一斉に改善しても、生産量は増えません。増えるのは、いちばん詰まっている一箇所に手を入れたときだけです。
マーケティングのお金も同じです。7つの中から、いま自分の会社でいちばん金額が大きい、あるいはいちばん腹が立つ1つを選んでください。そこだけを潰す。それで十分です。「どこがいちばん詰まっているか」の見つけ方そのものについては、中小企業のお金の使い方|投資の前に「ボトルネック」を見つける現場術に、生産管理の考え方をそのまま使って書いています。順番の決め方で迷ったら、そちらを先に読んでいただくのが早いはずです。
もうひとつ、はっきりさせておきたいことがあります。今日お伝えしたのは、マーケティングの支出全体を、上から一段引いて見る物差しです。広告も、制作物も、ツール代も、そこにかかる人の時間も、全部まとめて同じ目で見る。
これに対して、広告の”中身”を1つずつ見ていく——たとえばGoogle広告が実際にどんな検索語句でクリックされているかを開き、目的とズレた言葉を1つずつ止めていく——という、もう一段細かい作業もあります。そちらは無駄クリックで広告費を溶かさない|検索語句と除外キーワードの使い方に、管理画面の操作手順まで含めて書きました。
使い分けはシンプルです。「どの箱にお金を入れるか」を決めるのが今日の記事。「箱の中の漏れを塞ぐ」のが、そちらの記事。順番としては、今日の記事で全体を見てから、詰まっていた箱の中に入っていくのが効率的です。全体の配分がズレているのに箱の中だけ磨いても、④の「加工そのもののムダ」になってしまいますから。
最後に、これだけはお伝えしておきたいことがあります。
去年つくって使わなかったパンフレットは、失敗ではありません。それは「うちの商談では、この形の資料は使われない」という事実を教えてくれた、貴重な情報です。過去に頼んだ制作物も、試して合わなかったツールも、同じです。何も作らなかった会社には、この情報がありません。やってみたからこそ、次に何を作るべきかが決められる——私は、過去の投資をそう捉えています。
そしてもう1つ。私は「ムダを削れば売上が上がります」とは申し上げません。そんな保証はできませんし、実際そう単純ではないからです。ムダ取りの目的は、削ること自体ではありません。トヨタ自動車の説明でムダ取りが、良い品質で安くタイミングよく届けるための手段として置かれていたのと同じで、マーケティングのムダ取りも「本当に効かせたい一箇所へ、お金と時間を回すため」の手段です。削って空いた分を、どこに入れ直すか。そこまで決めて、はじめて意味を持ちます。
今日の話は、突き詰めるとこれだけです。あなたが工場で毎日やっているムダの見つけ方は、マーケティングのお金にもそのまま使えます。新しい知識も、新しいツールも要りません。すでに持っている物差しの向きを、少し変えるだけです。
まずは冒頭の1手から始めてください。去年つくった販促物を並べて、この1か月で使ったものに丸をつける。丸のつかなかったものを眺めながら、「なぜこれは使われなかったのか」を考える。そこから、あなたの会社に本当に必要な次の一手が見えてきます。
「7つのうち、どれがうちの一番の詰まりなのか判断がつかない」「並べてはみたが、次に何を捨てて何を残すべきか決めきれない」——そんなときは、外部CMO(社外のマーケティング責任者)として、詰まっている一箇所を一緒に探すところからお手伝いしています。まずは、御社の状況をお聞かせください。初回面談はオンラインで90分程度。こちらから契約を急かしたり、その場で契約をお願いしたりすることはしません。無料相談はこちらのお問い合わせフォームからお寄せください。
【出典・参考】
・トヨタ自動車株式会社 公式サイト「トヨタ生産方式」https://global.toyota/jp/company/vision-and-philosophy/production-system/(2026年7月31日確認)
・愛知県 公式サイト「あいちの魅力(産業構造・事業環境)」2025年10月29日更新https://www.pref.aichi.jp/soshiki/ricchitsusho/miryoku-kouzou.html(2026年7月31日確認)。製造品出荷額等の原データは経済産業省「2024年経済構造実態調査」(2023年実績)。
・参考文献:大野耐一『トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして』ダイヤモンド社、1978年(本記事では同書からの引用は行っていません)。
※「7つのムダ」をマーケティングの支出に当てはめる見立ては、私(マークレスト)独自のものであり、トヨタ自動車株式会社および大野耐一氏の見解ではありません。また、7項目の呼び方は資料によって揺れがあります。
※本記事は考え方を一般的に解説するものです。個別の支出・契約・税務の判断は、顧問税理士や各分野の専門家にご相談ください。