採用マーケティング

応募が来たのに、面接の前に辞退される|「間」で起きていること

この記事の要点

応募が来たのに面接の前に辞退される——原因を待遇に求める前に、応募と面接の「間」を見てください。労働条件は原則、面接などで最初に接触する時点までに明示が必要です。その決まりに沿って今日できる一手を整理しました。愛知・岐阜・三重の経営者へ。

結論から先に申し上げます。応募が来たのに面接の前に辞退されるとき、その原因を「ご縁がなかった」で片付けてしまうと、打ち手は一つも残りません。ですが実際には、応募が届いてから面接までの「間」に、会社側がやるべきことが決まっています。しかもそれは、私の感想ではありません。法令に書かれています。

厚生労働省のリーフレットには、こうあります。「原則、面接などで求職者と最初に接触する時点までに、全ての労働条件を明示する必要があります。」——「面接の場で説明すればいい」ではなく、面接より前にと書かれているのが要点です。

今日やっていただきたいことは1つだけです。自社の求人票と採用ページを開いて、法令が定める明示項目(明示=はっきり示して伝えること)が全部書かれているか、上から順に1つずつ確認してください。項目の一覧は、この記事の中ほどに表で載せます(全11項目・そのまま印刷して使える形にしてあります)。書かれていない項目が見つかったら、そこが「応募者が、面接の前に判断できない項目」です。判断できなければ、人は待ってくれません。他社の選考が先に進めば、そちらへ行きます。

この記事が役に立つのは、こんな会社です。

  • ハローワーク・求人サイト・自社ホームページのいずれかで求人を出している
  • 応募は来るのに、面接まで進まないことがある

ひとつ、先に誤解を解いておきます。「うちはハローワークに出していないから、法律の話は関係ない」——これは成立しません。自社ホームページや求人サイトで直接募集している会社も、法律上は「労働者の募集を行う者」にあたり、同じ義務がかかります。根拠は後半で条文ごと示します(適法・違法の判断は行いません)。

逆に、知人の紹介や縁故だけで採用が回っている会社には、この記事は不要です。応募と面接の「間」が、そもそも存在しないからです。ここで閉じていただいて構いません。

ここから先は、①辞退が実際どのタイミングで起きているか(調査の数字)、②面接の前までに何を伝えるべきか(法令の中身と確認リスト)、③「速く返したほうがいい」を感覚ではなく法令の言葉で言うとどうなるか、の順で書いていきます。

この記事は、前編の続きです

以前、求人を出しても応募が来ない|求人倍率より先に見るべき数字という記事で、応募が届くまでの4つの関門(見つかる→開かれる→読まれる→応募される)と、その測り方を書きました。

あの記事は「応募される」で終わっています。今日はその先——応募が届いてから、面接の席に座っていただくまでの話です。応募が届くまでの話には踏み込みませんので、そちらが気になる方は前編をご覧ください。

そしてもう1つ。求人票そのものに何をどう書くかという話は、求人票は、AIに書かせない|募集する会社が先に作る「事実台帳」の手順で正面から扱っています。今日の記事は「何を、いつまでに伝えるか」の話で、守備範囲が違います。

辞退は、いつ起きているのか

まず、民間の調査を1つ引きます。ただし、この数字には最初に条件を付けさせてください。ここを飛ばすと誤読します。

エン・ジャパン株式会社(現・エン株式会社)が2023年7月25日に発表した「選考辞退」についてのアンケートです。調査方法はインターネットによるアンケート。調査対象は転職サイト『エン転職』を利用するユーザー。調査期間は2023年5月29日〜6月27日。有効回答数は8,622名。

この3つは、数字を見る前に頭に入れてください。

  • 転職サイトを使っている人だけに聞いた数字です。日本の求職者全体を代表するものではありません。ハローワークだけで探している方、知人の紹介で動いている方は入っていません。
  • 2023年5〜6月の調査です。この記事を書いている2026年8月から見ると、約3年前の数字です。
  • 複数回答の設問が含まれます。複数回答とは「あてはまるものを全部選んでください」という聞き方のことで、合計は100%を超えます。「面接前46%+面接後45%=91%で、残り9%は…」という足し算はできません。

そのうえで。この調査では、転職活動で選考辞退をしたことが「ある」と答えた方が61%(2022年の同調査から5ポイント上昇)でした。そして辞退した方に「どのタイミングで辞退しましたか」と聞いた結果が、こちらです。

辞退したタイミング 割合
面接前 46%
面接後 45%
内定取得後 37%

※複数回答のため、合計は100%を超えます。母数は「選考辞退をしたことがある」と回答した方です。

いちばん多いのが「面接前」です。会社側から見れば、まだ一度も顔を合わせていない段階で、いちばん人が抜けているということになります。

ここで一言だけ添えます。この調査は「面接前がいちばん危ない」と断定しているわけではありません。面接前46%と面接後45%は、ほぼ並んでいます。私がこの数字から言えると考えているのは、ここまでです——面接の前の段階は、面接の後と同じくらい人が抜けている。そして、抜けている場所が「顔を合わせる前」である以上、打ち手も顔を合わせる前に置くしかない。

面接前に辞退した理由——3つのうち、動かせるのは1つだけ

同じ調査で、面接前に辞退した方に理由を聞いています(複数回答)。上位3つはこうでした。

順位 面接前に辞退した理由 割合
1位 他社の選考が通過した 37%
2位 ネットで良くない口コミを見た 27%
3位 企業の応対が悪かった 20%

※複数回答のため、合計は100%を超えます。母数は「面接前に辞退したことがある」と回答した方です。

ここが今日の急所です。並べてみると、性質がまったく違う3つが混ざっています。私はこう読んでいます。

  • 1位「他社の選考が通過した」(37%)——自社では動かせません。他社がいつ結果を出すかは、こちらの都合と無関係です。
  • 2位「ネットで良くない口コミを見た」(27%)——すぐには動かせません。口コミは過去の積み重ねで、今日どうにかできるものではありません。
  • 3位「企業の応対が悪かった」(20%)——これだけが、今日から自社で動かせます。しかも、お金がほとんどかかりません。

1位と2位を見て「やっぱり環境のせいだ」と思われたなら、それは半分正しくて、半分もったいない。環境は変えられませんが、3位は変えられます。そして——ここからが本題ですが——「応対」として何をすべきかは、実はかなりの部分が法令に書いてあります。センスや気配りの話ではありません。

もう1つだけ、この調査から引きます。面接「後」に辞退した理由の第1位は「求人情報と話が違った」(49%・複数回答)でした。面接前に伝えていなかったことが、面接で初めて出てくる。すると、そこで抜ける。面接前の準備を怠ると、面接後にツケが回るという形になっています。

私自身、採用する側でこれを経験しています。応募をいただき、面接の日程まで決まっていた方から、直前に辞退のご連絡がありました。理由を伺うと、面接の前にもう一度こちらのホームページを見直して、ご自身の希望する条件と合わないと分かった、とのことでした。

その方は、面接に来る前にご自分で調べ直していたのです。こちらが面接の場で説明しようと思っていたことを、その前に、こちらが用意していた情報だけで判断していました。このあとご紹介する法令が「面接などで求職者と最初に接触する時点までに」と定めているのは、まさにこの局面のことだと、私は身をもって知りました。

「面接の前まで」に何を伝えるべきかは、法令に書かれています

ここからが記事の背骨です。

厚生労働省のリーフレット「募集時などに明示すべき労働条件が追加されます!」(管理番号 LL050628 需02)に、こう書かれています。

「ただし求人広告のスペースが足りない等、やむを得ない場合には『詳細は面談時にお伝えします』などと付した上で、労働条件の一部を別途のタイミングで明示することも可能です。この場合、原則、面接などで求職者と最初に接触する時点までに、全ての労働条件を明示する必要があります。」

もう1か所。

「また、面接等の過程で当初明示した労働条件が変更となる場合は、その変更内容を明示する必要があります。この明示は速やかに行ってください。」

言葉を1つ噛み砕きます。「明示」とは、はっきり示して伝えることです。「察してもらう」「聞かれたら答える」ではなく、こちらから示す。それが「明示」です。

そして、この2か所が意味するところは、はっきりしています。

  • 求人広告に全部書ききれないときに「詳細は面談時にお伝えします」と書くこと自体は、認められています。スペースには限りがありますから、当然です。
  • ただしその場合でも、原則として「面接など、求職者と最初に接触する時点まで」に、全部を伝え終えている必要があります。面接の席で初めて出す、では遅いということです。

「応募と面接の間」を名指しで指している公式の記述は、私が調べた限りここです。だから今日の記事は、ここを軸に置いています。

※このリーフレットは2024年4月1日の施行に向けて作られたもので、表題などが「追加されます」という未来形になっています。この記事を書いている2026年8月時点では、すでに施行済みです。引用にあたっては、現在形で読める箇所をそのまま用いています。

「うちはハローワークに出していないから関係ない」は成立しません

冒頭で触れた点を、条文で確かめます。職業安定法5条の3第1項です(法令検索サイト e-Gov の現行条文。施行日2026年4月1日/2026年8月9日確認)。

「公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者は、それぞれ、職業紹介、労働者の募集又は労働者供給に当たり、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者に対し、その者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」

長いので、要点だけ抜きます。義務を負う相手として「労働者の募集を行う者」が挙げられています。ハローワークや人材紹介会社と並んで書かれている、という点が大事です。

自社のホームページに採用ページを作って直接募集している会社も、求人サイトに自分で出稿している会社も、「労働者の募集を行う者」です。誰かに仲介してもらっているかどうかは関係ありません。「ハローワーク経由じゃないから、うちは別」という切り分けは、条文上ありません。

——ただし、御社の個別の募集がこれにどう当てはまるかの判断は、社会保険労務士など該当分野の専門家の領域です。ここでは条文がそう書かれている、という事実までをお伝えします。

面接の前までに伝えるべき項目【確認リスト】

では、具体的に何を伝えるのか。職業安定法施行規則4条の2第3項に一覧があります(e-Gov 現行条文。施行日2026年4月1日/2026年8月9日確認)。右の欄を、自社の求人票と採用ページを見ながら埋めてみてください。

項目 かみ砕くと 書いてある?
①業務の内容
(変更の範囲を含む)
入社した直後にやる仕事に加えて、将来の配置転換なども含めて、どこまで変わりうるか
②労働契約の期間 期間の定めがあるか、ないか。あるなら、いつからいつまでか
③試みの使用期間 いわゆる試用期間のことです。あるか、あるなら何か月か
④有期労働契約を更新する場合の基準
※期間の定めがあり、更新することがある場合に限る
どういう基準で更新を判断するか。通算契約期間や更新回数に上限があるなら、その上限も(「通算契約期間」=契約を重ねた合計の長さ)
⑤就業の場所
(変更の範囲を含む)
最初に働く場所に加えて、転勤などでどこまで変わりうるか
⑥始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日 何時から何時までか、残業があるかないか、休憩、休みはいつか
⑦賃金の額 いくら払うか(臨時に支払われる賃金・賞与などは除きます)
⑧健康保険・厚生年金・労災保険・雇用保険の適用 4つの保険が、それぞれ適用されるかどうか
⑨雇用しようとする者の氏名または名称 どこの会社が雇うのか。社名を出さない募集は、ここが埋まりません
⑩派遣労働者として雇用しようとする旨
※派遣として雇う場合に限る
派遣として雇うなら、そうだと分かるように書く
⑪就業の場所における受動喫煙を防止するための措置 職場のたばこ対策がどうなっているか(屋内禁煙、喫煙室あり など)

ここで、線を1本引かせてください。この一覧は、法令に定められた項目をそのまま並べたものです。御社の書き方がこの義務を満たしているかどうか、という適法・違法の判断を、私は行いません。その判断は社会保険労務士など該当分野の専門家の領域です。抜けが見つかったら、そちらへご相談ください。

そのうえで、私が採用の側から申し上げられるのはこうです。この11項目は、そのまま「応募者が、面接に行くかどうかを決めるために要る情報」でもあります。法令が定めた項目と、求職者が知りたい項目が、ほぼ重なっている。抜けている項目は、そのまま「相手が判断できない項目」です。判断できない人は、判断できる他社へ行きます。

2024年4月に増えた3つは、特に抜けやすい

上の一覧のうち、2024年4月1日の改正で新しく追加されたのは、次の3つです。

  • ①業務内容の「変更の範囲」
  • ⑤就業場所の「変更の範囲」
  • ④有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)

「変更の範囲」という言い方が分かりにくいので、噛み砕きます。厚生労働省のリーフレットには、こう説明されています。「『変更の範囲』とは、雇入れ直後にとどまらず、将来の配置転換など今後の見込みも含めた、締結する労働契約の期間中における変更の範囲のことをいいます。」

つまり、「入社したときの仕事・場所」だけでなく、「この先どこまで変わりうるか」まで示すということです。

私はこの3つを、単なる事務手続きの追加だとは思っていません。求職者が面接前に不安に感じやすい部分そのものだと、私は見ています。「入ってから、まったく違う部署に回されないか」「転勤はあるのか」「この契約はいつまでなのか」——ここが空欄のまま面接に呼ばれても、応募した側は判断材料を持てません。

逆に言えば、ここをきちんと書いてある求人は、それだけで応募者の不安を1つ減らせます。費用はゼロです。

伝え方にも決まりがあります——原則は「書面」

何を伝えるかだけでなく、どう伝えるかにも定めがあります。施行規則4条の2第4項です。

原則は「書面の交付」。そのうえで、書面を受け取るべき本人が希望した場合に限り、ファクシミリの送信や電子メール等での送信も認められています。ただし電子メール等の場合は、受け取った人がその記録を出力して書面を作成できるものに限るとされています。(なお同項には、職業紹介について緊急の必要がある場合の例外も置かれています)

実務に引き直すと、こうなります。「本人が希望していないのに、メールだけで済ませる」は、この条文が想定している形ではありません。また、画面で見て消えてしまうような伝え方(本人が手元に残せない形)も想定されていません。

もう1つ、見落とされやすい定めがあります。施行規則4条の2第6項です。試用期間中の条件と、試用期間が終わった後の条件が異なる場合は、それぞれを示さなければならないとされています。「試用期間中は月給が下がる」という話をよく伺いますが、その2つを別々に書いているか——ここは確認しておく価値があります。

伝えた内容は、記録に残して保存する決まりがあります

これも、私が見てきた範囲では、あまり話題に上らない定めです。施行規則4条の2第7項では、労働者の募集を行う者などは、明示した労働条件に関する記録を、その募集が終了する日まで(募集終了日以降に契約を結ぼうとする場合は、その契約を締結する日まで)保存しなければならないとされています。

採用の実務から見ると、これは意外に効きます。「どの時点で、誰に、何を伝えたか」が残っていれば、後で認識のズレが起きたときに、事実で確かめられます。先ほどの調査で、面接後の辞退理由の第1位が「求人情報と話が違った」(49%・複数回答)だったことを思い出してください。「話が違った」と言われないための備えは、法令が求めている記録の保存と、実は同じ形をしています。

古い求人票を放置しない——「正確かつ最新の内容に保たなければならない」

ここまでは「情報が足りていない」場合の話でした。もう1つ、よくある形があります。情報は載っているが、古い。

これにも条文があります。職業安定法5条の4第2項です。

「労働者の募集を行う者及び募集受託者は、この法律に基づく業務に関して広告等により労働者の募集に関する情報その他厚生労働省令で定める情報を提供するときは、正確かつ最新の内容に保たなければならない。」

「保たなければならない」——義務として書かれています。「保つよう努める」でも「望ましい」でもありません。

ここでも、私は適法・違法の判断はしません。ただ、条文がこう書かれているという事実は、そのままお伝えします。

採用の側から見た意味は、こうです。数年前に作った採用ページを、そのまま置いている。当時の給与レンジのまま。当時の勤務地のまま。募集を止めた職種が、まだ載ったまま。——応募者はそれを読んで応募し、面接前のやりとりで「今は少し違います」と言われる。そこで信用が減ります。面接に来る前に、です。

採用ページの更新は、後回しにされがちな仕事です。売上に直結して見えないからです。ですが、古い情報を出したまま募集を続けることは、法令上の義務の面から見ても、応募者との信頼の面から見ても、放置してよいものではありません。

「速く返したほうがいい」を、感覚ではなく法令の言葉で言うと

採用の話になると、「返信は早いほうがいい」という話をよく伺います。私もそう思います。ですが、ここで正直に書かせてください。

「返信が遅いと◯%が辞退する」という数字を、私は持っていません

この記事を書くにあたって、「返信までの日数と辞退率の関係」を示す信頼できる調査を探しました。公的なものも、民間のものも、私が確かめられる範囲では見つかりませんでした。数字らしきものはいくつか出てきましたが、出所をたどると根拠が確かめられなかったり、同じ資料の中で数字が食い違っていたりしました。

ですので、この記事には「◯日以内に返せば辞退が◯%減る」という類の数字は一切書きません。根拠を示せないことは書かない、というのが私の方針です。「一般に言われている」で埋めることもしません。

そのうえで——「速く」を語れる、誠実な道が1つだけあります。法令の言葉です。

先ほど引いた厚生労働省のリーフレットには、こうありました。「この明示は速やかに行ってください。」面接の過程で当初示した労働条件が変わる場合の話です。

もう1か所。施行規則4条の2第8項には、こうあります。

「求人者は、公共職業安定所から求職者の紹介を受けたときは、当該公共職業安定所に、その者を採用したかどうかを及び採用しないときはその理由を、速やかに、通知するものとする。」

この条文には、注意して読むべき点が2つあります。いずれも落とすと話がずれます。

  • これはハローワーク(公共職業安定所)から紹介を受けた場合の話です。求人サイト経由や自社サイトからの直接応募には、この条文はそのままは当てはまりません。
  • 文末が「するものとする」です。「しなければならない」という強い書き方とは、条文上のニュアンスが違います。この違いをどう評価するかは法律の専門家の領域ですので、私はここで断定はしません。

それでも、意味は小さくありません。「速やかに」という言葉が、感覚論ではなく公式の文書に、少なくとも2か所、はっきり書かれているということです。

社内で「返信、そんなに急がなくてもいいだろう」という話になったとき、「早いほうがいい気がする」では議論は動きません。ですが、「面接の前までに全部明示する、変更があれば速やかに、と国の資料に書いてあります」と言えれば、話は動きます。これが、根拠のない数字を使わずに「速さ」を社内で通すための、いちばん確かなやり方だと私は考えています。

応募者の個人情報にも、決まりがあります

応募と面接の間で、会社は必ず応募者の個人情報を扱います。ここにも条文があります。職業安定法5条の5第1項です。

要点だけ申し上げると、労働者の募集を行う者などは、求職者等の個人情報を収集するにあたっては「その業務の目的の達成に必要な範囲内で」「当該目的を明らかにして」行い、保管・使用はその収集の目的の範囲内で行わなければならない、とされています(本人の同意がある場合など、例外の定めも置かれています)。

実務に引き直すと、確認すべきことは2つです。

  • 応募フォームで、採用選考に必要のない情報まで集めていないか。「とりあえず聞いておく」で項目を増やしていないか。項目が多いフォームは、そもそも応募者が途中で離れる原因にもなります。
  • 何のために使うのかを、応募者に示しているか。採用選考のために使う、と明らかにしているか。

ここでも適法・違法の判断は私の役目ではありません。ただ、応募フォームの項目を減らすことは、法令の趣旨から見ても、応募のしやすさから見ても、同じ方向を向いています。両方に効く数少ない一手なので、挙げておきます。

同じ愛知県でも、名古屋は1.48倍、尾張は0.91倍です

最後に、東海の会社に向けた話を1つ。

愛知労働局が公表した「最近の雇用情勢(令和8年6月分)」(令和8年7月31日公表)によると、愛知県の有効求人倍率は1.21倍(季節調整値・受理地別)で、3か月ぶりに低下しました。ただし、今日お伝えしたいのは、この県全体の数字ではありません。

言葉を3つ、噛み砕きます。

  • 有効求人倍率=ざっくり言えば、募集の数と、仕事を探している人の数の比です。
  • 季節調整値=毎年決まって起きる季節の波(春に人が動く、など)を、ならした数字です。ならしていない、集計したままの数字は「原数値」と呼ばれます。
  • 受理地別その求人を受け付けたハローワークがどこかで数えた集計です。これとは別に、働く場所がどこかで数える「就業地別」という集計もあり、同じ月でも値が変わることがあります。この記事では、県全体の1.21倍がこの受理地別です。

同じ資料には、県内を4つの地域に分けた数字も載っています。今日お伝えしたいのは、こちらです。

地域 有効求人倍率 含まれるハローワーク
計(愛知県) 1.15倍 県内のすべて
名古屋 1.48倍 名古屋中・名古屋南・名古屋東
尾張 0.91倍 一宮・半田・瀬戸・津島・犬山・春日井
西三河 0.94倍 岡崎・豊田・刈谷(碧南出張所含む)・西尾
東三河 0.93倍 豊橋・豊川(蒲郡出張所含む)・新城

※令和8年6月の数値。新規学卒を除き、パートタイムを含む原数値です。各地域の値は、その地域にある公共職業安定所(ハローワーク)の取扱数の合計です。

ここで、数字の扱いに1つ注意してください。この地域別の4つは原数値で、先ほどの県全体1.21倍は季節調整値です。作り方が違う数字なので、「1.21倍から名古屋の1.48倍を引くと…」といった引き算はできません。比べるなら、同じ表の一番上にある県の計、1.15倍と見比べてください。こちらは4つの地域と同じ条件で並んでいます。

そのうえで、見えてくることがあります。県の計(原数値)は1.15倍。ところが4つの地域のうち、この数字を上回っているのは名古屋(1.48倍)だけです。尾張・西三河・東三河は、いずれも県の計より低く、しかも1倍を割っています。1倍を割るというのは、仕事を探している人の数のほうが、募集の数より多い状態です。

私は、この差が採用の実感をまるで変えると見ています。名古屋の会社が「人が採れない」と言っているのと、尾張の会社が「人が採れない」と言っているのでは、置かれている状況が違います。同じ県内でありながら、1.48倍と0.91倍。この開きは、県というひとくくりの単位で語れる幅ではありません。

私がここで申し上げたいのは、この一点です。採用の状況を語るときは、自社のいる地域の数字まで下ろしてください。大きな単位の数字だけで「人手不足だから仕方ない」と片付けてしまうと、そこで思考が止まります。そして、応募と面接の間で起きていることは、求人倍率が何倍であっても、自社で動かせます。

お金をかける前に「いちばん詰まっている場所」をどう見つけるか、という考え方については、中小企業のお金の使い方|投資の前に「ボトルネック」を見つける現場術にも書いていますので、あわせてご覧ください(記事の中の「ボトルネック」という言葉は、この「いちばん詰まっている場所」のことです)。

まとめ——「間」でやることは、決まっています

今日の話を、短くまとめます。

  • 転職サイト利用者への調査では、辞退のタイミングは面接前46%・面接後45%・内定取得後37%(複数回答/2023年5〜6月調査/有効回答8,622名)。顔を合わせる前の段階でも、多くの人が抜けています
  • 面接前の辞退理由の上位3つのうち、今日から自社で動かせるのは3位の「企業の応対が悪かった」(20%)です(同調査・複数回答)
  • その「応対」として何をすべきかは、かなりの部分が法令に書かれています——原則、面接などで最初に接触する時点までに、全ての労働条件を明示する
  • 自社ホームページで直接募集していても、「労働者の募集を行う者」として同じ義務がかかります
  • 募集情報は「正確かつ最新の内容に保たなければならない」——古い求人票の放置は、信頼の問題であると同時に、条文が名指しする問題でもあります
  • 「返信が遅いと◯%辞退する」という数字を、私は持っていません。代わりに「速やかに」という国の言葉が、少なくとも2か所にあります(うち1つはハローワーク経由の場合の定めです)
  • 愛知県内でも名古屋1.48倍/尾張0.91倍/西三河0.94倍/東三河0.93倍と差があります(原数値・新規学卒を除きパートタイムを含む・各地域のハローワークの取扱数の合計)。自社の採用は、自社のいる地域の数字で見てください

そして、今日の1手はこれだけです。自社の求人票と採用ページを開いて、11項目の確認リストを上から埋める。お金はかかりません。かかるのは30分ほどです。空欄が見つかったら、それが応募者の「分からないまま待たされている項目」です。その空欄を埋めるところから始めてください。

私が担う範囲と、担わない範囲

最後に、線を引かせてください。

私が担うのは、採用ページと応募後のやりとりの”構成と計測”の設計であり、労働者の募集そのものに従事するものではありません。応募者を集めること、求人票・募集要項の作成、求人媒体への掲載代行、人材のご紹介は、いずれも行いません。また、労働条件の明示が法令上の要件を満たしているかどうかの適法性の判断、および労働条件通知書などの書類の作成は、社会保険労務士など該当分野の専門家の領域です。私はそこには立ち入りません。本記事は、法令に定められている内容を紹介し、採用の観点から考え方を一般的に解説するものです。

そのうえで、「応募は来るのに面接まで進まない」「採用ページに何がどこまで書けているのか、自社では判断がつかない」「応募が届いてからのやりとりが、担当者ごとにばらばらになっている」——そうした自社サイト側の設計と、応募後の流れの組み立てについては、外部CMO(社外のマーケティング責任者)としてご一緒できます。

初回面談はオンラインで90分程度。可能な限り対面でお会いすることも大切にしています。こちらから契約を急かしたり、その場で契約をお願いしたりすることはしません。新たな投資が不要と判断すれば、その旨を誠実にお伝えします。まずは御社の状況をお聞かせください。無料相談はこちらのお問い合わせフォームからお寄せください。

【出典】
・厚生労働省「募集時などに明示すべき労働条件が追加されます!」(管理番号 LL050628 需02)
https://www.mhlw.go.jp/content/
001114110.pdf
(2026年8月9日閲覧)
 掲載元:厚生労働省「令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます」
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/
bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/
r0604anteisokukaisei1.html
(2026年8月9日閲覧)
 ※同リーフレットは2024年4月1日の施行に向けて作成されたもので、表題等が未来形で記載されています。本記事執筆時点(2026年8月)では施行済みです。
・職業安定法(昭和二十二年法律第百四十一号)5条の3第1項、5条の4第2項、5条の5第1項
https://laws.e-gov.go.jp/law/
322AC0000000141
(e-Gov法令検索/施行日2026年4月1日時点の現行条文/2026年8月9日閲覧)
・職業安定法施行規則(昭和二十二年労働省令第十二号)4条の2第3項・第4項・第6項・第7項・第8項
https://laws.e-gov.go.jp/law/
322M40002000012
(e-Gov法令検索/施行日2026年4月1日時点の現行条文/2026年8月9日閲覧)
・エン・ジャパン株式会社(現・エン株式会社)「8000人に聞いた『選考辞退』の実態調査ー『エン転職』ユーザーアンケートー」2023年7月25日発表
https://corp.en-japan.com/
newsrelease/2023/33829.html
(2026年8月9日閲覧)
 調査方法:インターネットによるアンケート/調査対象:『エン転職』を利用するユーザー/調査期間:2023年5月29日〜6月27日/有効回答数:8,622名。図3・図4・図5は複数回答のため合計は100%を超えます。転職サイト利用者に限った回答であり、日本の求職者全体を代表するものではありません。
・愛知労働局「最近の雇用情勢(令和8年6月分)」令和8年7月31日公表
https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/
content/contents/002756525.pdf
(2026年8月9日閲覧)
 愛知県の有効求人倍率1.21倍は季節調整値(受理地別)。地域別の有効求人倍率(計1.15/名古屋1.48/尾張0.91/西三河0.94/東三河0.93)は同資料の表3によるもので、令和8年6月の原数値です。新規学卒を除きパートタイムを含み、各地域にある公共職業安定所の取扱数の合計です。季節調整値と原数値は算出方法が異なるため、両者を直接比較することはできません。

※本記事に記載した数値は、上記出典の公表時点のものです。統計は更新されますので、最新の値は各出典をご確認ください。
※法令の内容は改正されることがあります。実務でのご判断にあたっては、必ず最新の条文および社会保険労務士など該当分野の専門家にご確認ください。

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